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マーサの色は戻らなかった。
女魔術師は、人々の心を取り込んだ術をマーサにかけていた。ほかのものにかかっていた術より強力に、増幅された人々の怒りがマーサを包んでいるのだ。
マーサは自分が元に戻ることはほとんど諦めていた。この一年、見えない体で、魔術ではなく実際に黒く塗られてしまった壁を掃除したり、集めて焼却させてしまった衣服などの償いとして自ら布を織って町の人々に贈ったりした。私にできることをしよう…。
今日は…。
陽が上る前の小学校。かつて自分が女魔術師の威を借り、黒く塗らせたステンドグラスが美しい扉。
子供達が登校してくる前に、この扉をきれいにしよう。
マーサはバケツの冷たい水に手を浸しながら、あの時子供達はどんなに怖かったことだろうと想像し、いつものことだが後悔に苛まれた。
「いけない、時間がないわ。早くしなくちゃ。」
ごしごし雑巾でこする。少しずつ少しずつ黒い色が落ちてガラスが見えてきた。冷たい水を何度も絞り、何度もこする。
落ちてきた。よかった。きれいになりそうだ…。
…あ。
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