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『ハトぷっぷ~』を真っ赤な顔で歌おうと、苦しいのに笑おうと、俺をはげましてくれるユリアを抱きながら119番をダイヤルした。
受け付け係が電話を受けた瞬間に俺は怒鳴る。
「1番早い救急車をよこしてくれ!」
すると受け付けてくれた相手は「先ずは落ち着く事が1番です」と言う。
慌てるとろくなことが起きかねない故、受け付け係の冷静な問いに現状を早口で伝えた。
相手は救急のプロ。従うしかない。
最も適切な方法は、このアパートから1番近くにある救急病院へ、俺たちの方が向かうことだと言う。
車が無い。けどその救急病院は歩いて10分弱の所にある。
ユリアを抱きかかえ、落とさない様に細心の注意を払い、かつ迅速に病院に到着した。
「早く! 早くしてくれ!」
開口一番そう叫んだ俺に、再び落ち着く様なだめられる。
◆
結局、診断はただの風邪で、これくらいの赤ちゃんにはよくあることだから、心配ないと先生に言われた。
風邪薬と解熱剤をもらって家に帰ると、さっそく赤ちゃんでも飲みやすい付属のスポイトを使って唇に注入して見守っていたら、ユリアはだんだんと落ち着いてきたみたいだった。
◆
ユリア、ありがとうね。
俺をはげましてくれて。
お前はまだ赤ちゃんなのに、よく耐えた。
ユリアを抱っこしながら背中をなでる。
そうしてハトぽっぽの歌をずーっと歌い続けた。
ユ~ラユ~ラ揺らしながら歌い抱いていると、弱く小さなユリアの温もりが、俺の心に染み渡る。
じんわりと浸透したんだ。
ゆるやかにユリアは眠りについた。
頑張ったな、ユリア。
そして 本当にありがとう。
◆
この時からだ。
俺は自覚した。
俺はお前の父!
父にならせてくれ!
自販機泥棒や、夜逃げや、詐欺なんかのチンピラだった昔の俺はもう捨てた!
これからは、この命!
この命をお前の為だけに注がせてくれ!
俺の人生を全て賭ける!
俺はお前を! なにがあっても!
絶対に! 絶対に!
守る!!
【10年後】
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