涙は貧乏に勝る

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二千万もの借金を抱えてしまった10年前、負債の利息はトイチ(十日で1割の利息) 闇金だからトイチや特にヒサン(日に3割の利息)は、“悲惨”なことから闇金のヒサンはこの業界でも最悪とされている。 俺の場合、ヒサンと比べたらマシだがトイチ。 だけど利息だけでも10日毎に200万を返済しなければならない。 1日あたりの20万円を毎日毎日稼ぐなんて、博打か高級ソープ嬢くらいしか知らない。 俺は男だし、娘が生まれた時、汚いカネでこの子を育てないと心に誓ったんだ。 だから、考えた。 考えに考え抜いた。 そうして閃いたのが、極道の山口さん。 かつて俺を借金で追い込むことに加担していたヤクザの親分だ。 『毒を以て毒を制す』 このことわざが光を刺した。 危険を孕(はら)むが、かつて俺が働いた名古屋のスナックチェーンの店長に掛け合い、山口さんとの話の場を設けてもらった。 手土産も有ると伝え、話を聞いてもらう。 かつての同僚が邪魔なので、チェーンの喫茶店ではなく、他の場所と時間をお任せした。 再会したのは山口さんがビルごと所有する6階建ての2階にある焼肉屋。 夕方オープンで今は昼間だから準備中のテーブルで話す。 向かい合った山口さんの最初の言葉は、手土産の要求だった。 ヤクザも焼肉屋や貸しビルを経営するなど一般社会への侵食(しんしょく)に躍起だが、暴対法も厳しい。故、シノギも過酷。 だから手土産である俺が過去に経験したホームレスからの脱出エピソードに加え、架空口座・ATM・飛ばし携帯・新しい人生付き夜逃げなどの要点と手口を教えてあげた。 俺を追う立場だった故、逆に逃避行で必死な俺の生き残りを賭けた実話を聞いた山口さんは「お前、やるな!」とかなりの好印象。 中でも 育毛剤の手口はダマした客から感謝の手紙を沢山もらったという実際のエピソードを聞き、手を叩いて笑っていた。 そういうダマした客そのものが喜ぶ商売はレアだと言って笑う。 まだまだネタはありますよー。と喰いつかせ、俺は本題に入る。 「ヤミ金の取り立てに困っています」 山口さんは、こう切り返してきた。
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