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ユリアがまだ赤ちゃんの頃、金の無い俺はクマのぬいぐるみを手作りしたんだ。
俺は裁縫(さいほう)なんて馴れていないから、たくさんの失敗を重ね、ようやくクマと呼べそうなぬいぐるみが完成。
三日三晩かかった。
ユリアには兄弟がいないから、ユリアの相棒になるように丈夫なクマさんを作った。
ユリアが11ヶ月の頃、おんぶをしてスーパーで買い出しをしていたとき。
おぶられたユリアが手にするクマのぬいぐるみを見た若い主婦が、こう言った。
『ママが作ったぬいぐるみですか。赤ちゃんもかわいいし、猫ちゃんもかわいいですねー』
猫じゃない。
クマだ。
悪気がないから否定もしない。けどクマさんは、ママじゃなくて俺の力作だ。
少し耳がズレているが、仲良しクマさん。
ユリアのよだれで一心同体の相棒だ。
◆
当時、金も無いのにベビーシッターに頼った。
俺は夜勤をメインに働くと時給が高いからユリアの面倒は夜にベビーシッターを頼んだ。
頼らざるを得なかった。
バイト仲間に自動車部品の金型屋の夜勤がかなり良い時給と聞きつけ、喰いついた。
朝も昼も仕事をしたが、安い団地に引っ越しし、隣に住む奥さんがユリアがかわいいと言ってくれ、僅かばかりの心付けで面倒の補助をしてくれたんだ。助かったよ。
それでもなるべく睡眠時間を削ってユリアとは昼間一緒に居られる時間をもうけた。
蒸発したユリコが残していった毛皮のコートやブランドバッグ等は怒りをもって売りさばいた。
だが二千万の借金返済には遠く及ばない。
夜勤の時給が高いのはベビーシッターも同じ。
故にユリアを食わせられなかった時は、苦肉の策で多重債務をせざるを得なかった。
ユリアが保育園に通っていた頃、こんな質問を受ける。
「お父ちゃん、どうしてウチにはテレビがないの?」
「……く……そ、それは……」
「お友だちのお家は みんなテレビがあるよ。2つあるお家もあるよ」
く、苦しい質問だ。
貧乏だからと言い辛い。
「なんでテレビがないの?」
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