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真由美先生はこう言った。
「ユリアちゃんをバカにして笑っていた子たちの数人は、給食費を払ってないんです」
「ええ? そんなあ……」
「裕福な家の子ばかりなのに、その親御さんに言い辛い給食費の催促(さいそく)をすると、義務教育なんだから給食にカネを出すなんてバカげてると反論するんです」
その点も含めて食べ物を大切にする俺の教育は間違ってないといい、ユリアちゃんには真由美先生が味方だと褒めたという。
「ありがとうございます。うちのユリアも私も、心ある真由美先生が担任で良かったです」
そう言って受話器を置いた。
まだユリアが保育園児だった頃のことを思い出す。
冬の寒さがきびしい元日の夜、世間は正月祝いでお祭ムードのなか、うちは灯油すら買えなかった。
「お父ちゃん ユリアお手手 冷たい」
寒さで眠れないユリアの小さな手に、『ハーー』と息をはき、優しくさすってあげた。
「ユリアのお手手、暖かくなぁれ」
薄いせんべい布団に身を寄せ合い、ユリアが寝付くまで、拾ってきた絵本を読み聞かせた。クマちゃんも一緒だ。
ほんのささやかな心の育み1つ1つに、ユリアはとびっきりの笑顔を俺に返してくれる。
貧しいがゆえの暖かなプレゼント。
俺がもらったのは、金なんかじゃ買えないユリアの笑顔。
本物の愛。
生涯を賭けても余りある。
他の何事にも代えられない。
真実の親子愛をもらった。
ユリアの笑顔が、この世に生を受けた最大の宝物だ。
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