涙は貧乏に勝る

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たしかユリアが小学1年の頃、警察から俺の働く職場に電話がかかってきたことがある。 ユリアが警察に“自首”したらしい。 は? 自首? 小学1年生が犯罪者? 電話じゃラチがあかないし、何よりもユリアが心配だから、俺は職場を抜け出し交番へ向かった。 聞けばユリアはクラスで流行っていた携帯型のゲーム機を盗んだとクラスメイトに吊るし上げを喰らったという。 おかしい。うちはそもそもゲームなんか人の創造力を奪うという建て前で、金が無いからゲーム全般を悪者にしている。 ユリアの大好きなクマさんはお父ちゃんが作った。 だからユリア自身も消費者ではなく生産者の立場になれ。と半ば本音で教育し、ユリアも納得している。 ユリアがゲームを盗む訳がないんだ。 だが教室のユリアの机から携帯型ゲーム機が出てきた。 ユリアは心は優しいが、この頃から既に一本木な性格で、幼いながらも事の真相を突き止めようとこう言った。 『今から けいさつに うったえる!』 クラス全員が凍りついた。 ボロい服を着た貧乏丸出しのユリアを笑い者にするためにした吊るし上げによる反撃は、悪意あるクラス全員にかなりのインパクト。 気性の荒い母ユリコのDNAは確実に受け継がれたと思ったよ。 交番でお巡りさんから事情を聴くと、ユリアは自首の意味も知らずに『じしゅしにきました』と出頭したらしい。 だからお巡りさんも小さなユリアの言う事に困っていた。 ユリアは自分がゲーム機を盗んでいないという絶対的な自信がある。 だから警察が本当の犯人を捕まえてくれると思い込み『自首?』したんだって。 翌日、クラスではユリアの机に忍ばせた犯人が壊れたゲーム機を、ただ捨てるだけではつまらないからというショボい理由でユリアの机に入れたと吐露。 事の真相を知った担任は、連帯責任として宿題を2倍出したと言う。被害者のユリアもだ。 だが、ユリアが受けたイジメはまだまだこんなもんじゃない。 特に4年生の頃に起きた凄いエピソードがある。
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