涙は貧乏に勝る

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昨日それでユリアは1人、風呂場で泣いていたんだなぁ。 “母親に捨てられた”なんて言われたら、気の弱い女の子なんかだとその場で泣いてしまうだろう。 俺が4年生だった頃を思い出す。 うちも父親が居なかったから、同じように片親だとからかわれた。 悔しかった! からかう方にとっては軽いことかも知れないが、 本人は1番触れてほしくない事。 だってさ、本人には決して曲げられない事実だもん。 生後9ヶ月から1番甘えたいはずのママが居ないユリア。 小さな頃は不憫(ふびん)で仕方がなかったけど、借金に追われて遊びどころか酒もタバコも一切やめたし、明けても暮れても労働労働の毎日。 だから睡眠時間を削れるだけ削ってユリアと接し、育てた。 日常すべてが必死だよ。 風呂の湯船では、疲れから睡魔に襲われて何度も溺死しそうになって、このままじゃいつか死ぬからと、もう10年もシャワーで済ませてる。真冬もだ。 新しい母親も考えたが、考える度に無理だと2秒で結論が出る。 俺たちを捨てたユリコ。どうしてる? お前の娘は凄いんだぞ! たった1人で5人の悪に立ち向かい勝ったんだぞ! しかもギャラリーのほとんどを泣かせて、俺も担任の先生までをも感動で涙ポロポロだ! いまや他の子がイジメられていると直ぐにユリアが助けに入り大魔神に変身するから、皆ユリアにビビっちゃってイジメは一掃されたんだ。 上級生までもカバーする無敵の凄さだぞ! 教職員の間では、ユリアが学校に居た期間だけイジメが無いことから、奇跡の現象『凪説(なぎせつ)』とされ伝説になったんだ。 ユリコ、もうお前は帰ってこなくていい。 恨んでないよ。お前はお前の人生を歩め。ユリアを産んでくれただけで十分だ。 お前が居ないから得られた、たった1つの愛がこの胸に、ある! 他の何にも代えること叶わない最愛の娘。 俺の天使。 ユリアを。 育てきる! 片親なのに凄いね! 胸を張れる娘だね! っていわれる宝。 この身 千切れようとも。 絶対に立派に育ててみせる!! 【13年後】
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