【最終章】背中とお腹

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ユリアが中学の3年に上がる頃には近所の八百屋さんで大根の葉っぱをもらって喜んでいた。 既にどのスーパーが何曜日に安いとか、タイムセールだとかを熟知しているユリコだが、八百屋さんに気に入られてるんだ。 分別のある年齢になったから、俺が今のユリアと1つしか変わらない15歳の秋にホームレスを経験した話をした。 『お父ちゃん、すご~い!』 過酷なコンクリート・サバイバルの話にユリアは釘付け。 『マイホームも別荘もあったんだぞ!』 橋の下がマイホームで、公園にダンボールで作った別荘もあったと言ったらユリアは笑いながらこう言う。 『その頃からお父ちゃんはダンボールで家まで創作しちゃうクリエイターだったんだね~』 『おう、女の子には無理な話だが、男は正に裸一貫の冒険が出来る。金は無くとも、ホームレス仲間からご馳走になった大根の葉っぱのみが入った味噌汁が最高だったよ』 『分かる、アタシもお父ちゃんに似て会話が得意。八百屋のおじさんを上手くよいしょすると、お金無くてもタダで大根の葉っぱくれるよ。大根丸ごとくれる時もあるよ~』 笑顔で語るユリアに常々思っていたことをぶつけてみる。 『しかしユリアは反抗期っていうのが無いなぁ。なぜだ?』 『アタシには反抗する理由が無かったからね~』 ユリアは中学に入ると直ぐに朝の新聞配達をしていた。 今住む団地を集中的に、なかなかの稼ぎだ。 おかげで二千万もあった借金もあと少しで返済が終わる。 生活にも少しゆとりがでてきて、今や日本の総人口を超えて普及する携帯電話もユリアは自分の稼ぎで手に入れた。 勉強に力が入る受験生。 俺の頃は全教科0点で高校に進学して、悪(わる)の先輩に勧められた水商売の世界に進んだ。 これが人生の分岐点であったことには間違いない。 ユリアの学力なら進学に心配はない。 高校に上がる半年前には借金の返済だった金が貯金に変わる。 15年も俺たち親子を苦しめた借金。 長期に渡った理由は利息が厳しいからだ。 返し始めは分母が大きいだけに、返済も苦しかった。 利息込みで計算すると、総支払額は五千万を超える。 だが後半は加速度的に減る。 今や俺は夜勤専門の正社員で、更に2件バイトをし、年収は900万だ。 『ユリア、大事な話がある』 『アタシも大事な話がある』
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