【最終章】背中とお腹

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俺の方の大事な話は、お金よりも大切なものを教えてあげたかった事。 まさに金を扱う信用金庫の“信用”。銀行の信用は信頼から生まれ、信頼は誠実さを見抜いた者の双方の心にあると。 つまり嘘つき者や横柄な奴ではなく、いつも正直で、謙虚で、誠実で、正しいと思った事には全力で立ち向かう様な人を見抜く力。 人間を見る“目利き” これを教えたかったが、ユリアの大事な話は2つも有り、『先に言わせて』と言うから譲った。 「お父ちゃんさえ許すなら、借金の返済が終わったら、アタシの稼いだお金は夢の為につかってもいい?」 「当たり前だ。これまでお前のお陰で助かった。金のかかる高校入学にも間に合うメドがたった。もう十分だ。ただ今をもって、自分の稼ぎは自分で管理しなさい。今まで本当にありがとう」 ユリアの夢の話は何度も聴いた。 小学生の頃は、ぬいぐるみのクマちゃんの例えでオモチャ屋さんになりたいと言っていた。 中3の今では、クマちゃんの様に小さな子だけを喜ばせるんじゃなくて、もっと幅広い年齢層を喜ばせたい夢に成長したという。 「お父ちゃんはアタシの為だけに純粋で誠心誠意、その身を削って心血注いでくれたから、アタシの方こそ感謝です。ありがとう」 ヤバい、これまでの努力とユリアの成長の思い出が同時並行になり、泣きそうだ。話を進めよう。 「そ、それでお前、もう1つ大事な話があるんだろ?」 「う、うん……それが……その~……」 「どうした急に、ユリアらしくない。ハッキリ言ってみろ」 「……すすす~、す~す~……」 「す~? あ、ステーキが食いたいか! ああドンと食え!」 「ちがっ! す~……す~……」 「す? あ、すき焼きやって、肉ばっか食いたいか? いいぞ、野菜はお父ちゃんが食う!」 「ちがうの……」 「寿司か! おう、回らない方の寿司でも許す! 食え食え!」 「……」 何なんだ? 俺より口の達者なユリアが口籠るなんて。 ユリアは急に正座をし、顔を赤らめ言う。 「す、好きな人ができた!」 なにィィィイイ!! だ、だ、誰だ!? 俺の大切なユリア!! 「何処のどいつだ? ぶっ殺してやる!!」 【結婚式当日】
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