【最終章】背中とお腹

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ユリアが連れて来たタケシはチビとは呼べない170cm越えの身長に成長していた。160cmのユリアとも釣り合う。 だがそれよりも中身が重要。 チャラい男だったら、その交際、即失格にしてやる! ユリアと一緒にタケシは学生服姿で現れ、『お邪魔いたします』と腰を折る。 俺はちゃぶ台の上座でドンと構え、2人に『座りなさい』と言った。 『は、失礼いたします』 『ならん!』 1度ならん! と言ってみたかったんだ、娘に手を出す野郎に。 正座するタケシは目を白黒させて言う。 『はい? 何がでしょうか?』 『俺の娘を奪う事、ならん!』 ユリアは俺の心を読み薄笑いを浮かべている。 ならん! と言ってみたかったのと、敵視した親父を切り抜ける能力も見定めたい。 それくらいの男じゃないと交際は認めねェ! 『お父さん、僕は本気です。ユリアさんとのお付き合いをお許しください!』 『お父さんって言うな!』 ユリアが割って入る。 『お父ちゃん、オジサンだと失礼だから、お父さんとしか呼びようがないでしょ!』 そうか? ……そうかもなぁ。ヤベェ、俺の方が緊張してどうする。しっかりした親父を見せなきゃ。 俺は事前に用意した試練を与える。 『ではタケシと言ったな、お前の座右の銘は何だ、言ってみろ』 くくく、中坊には難しい問いだろ? ユリアをカンタンに渡してなるものか。 『2つあります』 2つも有るのか! 『言ってみろ』 『1つ目は僕の夢の実現の為、“自分を励ます言葉を心の中に持て”。松下幸之助の言葉です』 なかなか良い言葉じゃねぇか。 『もう1つは何だ』 『1つ目を伏線とし、活かした言葉です』 『能書きはいいから早く言え』 急げ! 慌てろ! そしてトチれ! 『はい、“夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし、ゆえに、夢なき者に成功なし”吉田松陰の言葉です』 な、何だこいつ! 凄ェ! 的を射た回答ばかりか、この長い言葉を丸暗記した上に1つ目を本当に活かしてやがる。 舐められちゃマズイ、俺は大人だ!
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