【最終章】背中とお腹

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綺麗だ。ユリア、ウエディングドレス姿、似合ってるよ。そう言ってやりたい。 だがやめてくれ。 今まで育ててくれてありがとう なんて言うな。 大泣きしちゃうじゃねェか! バカと親バカは死んでも治らねェんだよ! 「お父ちゃん」 ユリアは片腕に赤ちゃんの頃からずーっと一緒のぬいぐるみのクマちゃんを抱え、もう片方の手に紙を持っている。 ユリアが赤ちゃんの頃、俺が作ったクマちゃん。 丈夫に作ったつもりだけど、23年という歳月の中、何度も何度もほころびた。 ほころびる度にユリアは裁縫(さいほう)でクマちゃんに愛情を注ぎ続けた。 クマちゃんはユリアと一心同体の相棒だ。 赤ちゃんの頃、ユリアのよだれにまみれたクマちゃん。 保育園児の頃、正月に灯油すら買えなくて震える夜に絵本をユリアと一緒に読み聞かせしたクマちゃん。 イジメられて帰ってきた布団で一緒に涙に濡れたクマちゃん。 おままごとの主役クマちゃん。 兄弟がいないから、ユリアのお話相手はいつもクマちゃん。 大きくなっても、部屋の特等席にはいつもクマちゃんが居た。 創作者にとって、こんなに大事にされたら満足だ。本望だ。 ◆ ユリア、恥ずかし過ぎるからそのまま何も言うな! 「分かっとる! 喋るな! そのままタケシの所へ行け!」 「いいえ、お父ちゃん、これだけは言わないといけません。アタシの感謝の気持ち、心を綴った手紙を読みます」 ユリアは手紙を読みあげる。
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