一話

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デリカシーなどあったものではない、ヒートアップしすぎて視線の火花が可視できそうだ。 「…いい加減にしないと、実力で排除しますよ?」 「やりたきゃやりなよ、返り討ちにしてやる!」 その瞬間、冷気と電撃が宙を迸り、巨大な爆発音を上げてぶつかり合う。それが戦闘開始の狼煙だった。 桜の美しい並木道は現在、戦場と化していた。 圧倒的な冷気から起こる突風と、嵐の雷の如く駆け抜ける雷鳴に、花弁は散り、花の吹雪を舞い上げる。 だが、元凶である2人は頭に血が上ってそれどころではない。周りのことなどお構いなしに壮絶なバトルを繰り広げていた。 美結が手を掲げる。 その掌から水晶のような鮮やかな冷気が漏れ出す。一振りすれば、辺り一帯を氷の世界へと誘う。あらゆる命を凍てつく白の世界。それを支配するのは氷の女王である。 「殺しはしませんが、手足の1本は覚悟して下さいっ!」 「断固拒否っ!そっちこそ死んでも知らないよ!」 氷結する大地の中、一筋の稲妻が火花を散らす。圧倒的な電撃と空気との摩擦から発生する熱。咆哮を上げながら真っ白な世界を滑走する。 「凍えろ…!」 手を振り下ろすと極寒の旋風が牙を向く。瞬く間に淡いピンク色の世界を真っ白に埋め尽くし、文字通り吹雪を演出する。 だが、その程度で止まるマキでもない。そもそも身体中に高圧の電気を帯びるマキはそんな簡単に凍らない。 「まだまだ、私はこんなんじゃやられないよっ!」 続いてマキの全身から高圧電流が放たれる。蒼い閃光が華々しく煌めき、圧倒的な空気摩擦によりさらに白く輝きを増す。 雷。 それは人類が太古から崇めた神の化身であり、自然界の鋭い牙である。 マキが操るその光はまさに自然の猛威に等しい。彼女は雷だ。 「いっくぞぉ!」 瞬きよりも速い。 一瞬にしてマキは美結の視界から姿を消し、その背後に回る。 じわじわと弱らせていく美結とは違い、マキの能力は一撃必殺だ。触れさえすれば美結も動けなくなる。 そう、これはもう決着がついた。
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