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確実に捉えていたはずだった。
マキは、自分が貫いた氷壁を見ながら唖然とした。軌道をずらされたのだ。美結の作り出した氷の絶壁に。
予め氷と氷の間に圧縮した空気を詰め込み、その空気の層にぶち当たったその瞬間に破裂、その勢いで30°も軌道を逸らされていたのだ。
莫大な力を操れる能力と、それを十二分に扱えるセンスと頭脳。もはやそれらは彼女の才能というより一つの能力の域に達している。
きっと、あのまま、彼女が姿を眩ましていなければ自分が負けていたことだろう。
背筋に嫌な汗が伝う。
こんな人は初めてだ。
だが、実力不足の自分への憤りと同時に、胸の高揚もあることはたしかだ。また機会があれば、闘ってみたいな。そうとさえ思うほどだ。
「さて、逃げられちゃったし、もうあたしも帰ろっかな」
「どこへ?」
そんなときだった。
がしっ
「ひっ!?」
頭を覆うほどの巨大な掌が、マキの脳天から被さった。万力のようにギリギリと締め付けられ、ゆっくりと体が宙に浮く。
「入学早々、何をしているのかな、1年生…!」
鬼の形相とはまさにこれのことだろう。というより、それ以外に形容できる言葉が思い当たらない。
「とりあえず、ちょっと生徒指導室まで来てもらおうか、お嬢ちゃん!」
「ま、待って待って!ほら、あたしだけじゃないって、そこに……」
とまで言いかけて、美結は姿を眩ませたことを思い出す。なるほど、急にいなくなったと思ったらそういう事だったのか。
「ほれ、言い訳は指導室で聞くから、しっっっかりと覚悟しておけよぉ!!」
「ひっ、ひゃい……」
彼女の頭から生えるアホ毛が、妙にゲンナリとしていた。
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