三話

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「…くだらないっ」 すぅっと、鋭い冷気が彼女を覆った。 「文句があるなら遠巻きにぐだぐだしてないで、もっと早く、直接来ればいいじゃないですか。それを揃いも揃って腰抜けの集まりですねっ!」 ついに美結でさえ青筋を立て始めた。 「落ち着きなさい逆廻!そんな子供みたいに意固地になって面倒になるより、少し頭下げるだけでいいだろ?」 刹那……。 「はっ?」 その声音は、今までにない色を帯びていた。 ………子供みたいに………… その言葉は確実に美結の中のタブーに、触れてはいけないところにストレートに決まった。 「私が、子供?」 その瞬間、教室内の気温が氷点下となる。いや、そんな柔なものではない。床が一瞬にして凍りつき、校舎全てを氷の世界へと変貌させた。 「………………………………!」 白く輝く氷が、大自然の美が今牙を向いて襲いかかる。 教師すら彼女を止められないだろう。 そう、彼女を除いて。 「美結ちゃんっ!」 その瞬間、耳を突き抜けるような雷鳴が静止の世界を突き破った。 「………渦巻、さん?」 怒りに暴走していた美結の瞳がふと元の輝きを取り戻す。 「……私は、なにを…?!」 「あっ、美結ちゃん!」 すでにマキが声を上げた時には彼女は走り出していた。それに続いてマキも追いかける。今放っておくと、きっと彼女は戻れない。 「待ってぇ!」 「ふぅ、結局そうなったか」 ため息をつく。 「この世界は人の力と感情を暴走させる。そもそもそういう世界だからな」 そう、この世界では人間の感情は剥き出しになる。大きな感情は抑えが効かなくなり、簡単に暴走してしまうのだ。美結のその例に当てはまる1人だろう。 だって、この世界はそういうふうに出来ているから。 そうだろ? 渦巻マキ。 二ノ宮勇は、1人この世界を見下ろしていた。
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