三話

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教室を出ると、すでに彼女の姿は消えていた。気配すらない。突然に美結が消失していたのだ。これも彼女の能力の一つであるのだろう。 しかし、今ここにいるのはlevel5、『韋駄天の刃』を持つ渦巻マキである。 人間というのは常に微弱な電磁波を放っている。最低限の電気を纏っていないと生きていけないからだ。 マキならば、美結の持つ電磁波を察知することくらい容易だ。 そして彼女の行く先に、逆廻美結は果たしてそこにいた。 「…見つけたよ、美結ちゃん」 屋上で独り、蹲っている背中に話しかける。 屋上、人間の行けない領域と人ならざるものが行ける領域。 美結はその境界線に座っていた。校舎から足を投げ出して。 「美結ちゃん、大丈夫?」 マキの心配そうな声。それはしかし美結のところには届かない。彼女の世界はまだ静止したままだ。 「ねぇ、美結ちゃん、戻ろ?」 ねっ?と手を伸ばす。 ーーーその言葉が届いたのか、彼女はゆっくりと振り向いた。 その眼は、光を失っていた。 「…私は、子供ですか?」 「えっ?」 「私は、まだお子様なんですか、渦巻さん」 虚ろな瞳はそれだけで空気を凍りつかせる魔力を持っているかのようだ。 「そんなことないよ、美結ちゃんはすごく大人っぽいよ。私なんかよりも」 「嘘つかないでください」 即座にその言葉を糾弾した。 「…じゃあなんで私は子供なんて言われるんですか。なんでこんな子供みたいな体型なんですかっ!」 「み、美結ちゃん…?」 「何故っ、私はまだ子供なんですかっ!」 逆廻美結は大人になりたかった。 子供という存在には大きな枷がありすぎた。否、彼女にとって子供という枷は大きすぎたのだろう。 子供には守れないものが多すぎる。それも子供という理由だけで。 子供という理由だけでその手は伸ばせない。 子供という理由だけでその目は隠される。 子供という理由だけでその口は塞がれる。 子供という理由だけで、彼女は傀儡とされるしかなかった。 そんな些細で強大な壁に彼女は勝てなかったのだった。 幼い頃の彼女には、彼女自身が生きる世界はどうしようもないものだった。その手は無力すぎると知ってしまったのだ。 もう嫌なんだ、子供というちっぽけな存在は。
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