一話

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その日は快晴だった。 波のない水面のように静かで、どこを見ても不純物など一つも見当たらない、完璧なまでの幻想的な青空だった。 さらになんとも言えないのがこの並木道を彩る淡いピンク色の桜だ。 曇りない透き通った世界の中に咲いていく花々。それらはよく見ると皆が皆、同じ色ではない。十人十色という言葉を表すようにそれぞれが少しずつ違う。それぞれが個性的であった。言い換えるなら十花十色というところだ。 そしてそれは春の風物詩に相応しいほど鮮やかで初々しかった。 「…私も詩人ですね」 プラス、成長しましたとも言おうとしたが、やめた。 新たな花を咲かせる桜と同様に、この春から新しく高校生となる逆廻美結はそっと1人でに呟いた。 中学生もいう「子供」からさらに一段階成長したのが嬉しくて少し浮かれているようだ。 それもそのはず、今日はその待ち望んだ高校生活の初日。入学式なのだ。 今だって、美結が入学する、「櫻彩学園」へ続く並木道を進んでいる。 美結は普段から色々な意味で(主に胸で)子供扱いされることが大嫌いだ。 だからこそ大人の階段を登ることが嬉しくて嬉しくて仕方なかった。新しい制服のまだシワすらないブレザーを見る度に心が踊った。 それにしたって、美結の胸はナレーションが語るだけでも可哀想なほど絶壁だった。 小学校の高学年にて、他の子よりも身長が高かった美結。周りの子に妬まれ、少しだけ天狗だった日々。調子に乗って「おっぱいも成長してきてるんですよ♪」と口走ったのがいい具合に黒歴史を象っている。やがて中学三年にもなると、背も追い抜かれみんな胸も成長して、気がつけば自分が一番子供っぽくなっていた。しかもあろうことに、あの頃から1ミリも変化してない、言わば絶壁(※胸ですよ)なのである。さらに壮大に表すならば水平線(※Aカップです)でもある。 「…さっきから何なんですか、このナレーションは?喧嘩でも売ってるんですか?」
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