1人が本棚に入れています
本棚に追加
気を取り直し、桜の木で華やかに彩られた並木道を進む。これで桜の花吹雪があると、古典風にいうなら「をかし」とでも言うところなのだろう。
しかし如何せん今年はまだ散り桜の時期ではないようだ。綺麗なことには変わりないからよしとするかと、もう一度正面を見上げた時。
「あれ?」
木の影にもぞもぞと動く黄色い物体があった。
木の落ち着いた茶色に桜の慎みやかでも明るいピンク、それにパッと目に映える金色。
それは割と景色に調和していて、だからこそ不思議な物体であった。
「…なんでしょうね?」
恐る恐る木の間を覗く。
「よしよーし、猫ちゃん?」
馬鹿がいた。
いや、美結は直感でそう感じた。
「…ってあれ?」
黄色い物体Xは振り返り、首をかしげた。
これは、どうやら少女のようだ。しかもこれから美結が入学する高校と同じ制服を着ている。
「どうしたの?」
そして、あたかもこちらが変なのではないかと思うほど、純粋な表情で質問される。むしろ、入学式のこんな日の登校で、しかもあと少しで始まる時間にこんなところで何をしているのかと質問してしまいたいくらいだ。
「というか、入学式という日の登校で、しかもあと少しで始まるこの時間にこんなところで何をしているのですか?」
しかし、美結は初対面の相手にさっくりとその疑問をぶつけてしまった。ちなみに、彼女は自身を人見知りする方だと評価していたが。
「えっ、あっ!しまったぁ!」
腕時計で時間を確認したその瞬間、金髪の少女は物凄い勢いで地面を蹴りつけ、颯爽と学校に向けて走り去っていった。
「…校舎目の前だから焦らなくても間に合うと思いますが、まぁいいですよね」
過ぎ去った嵐を呆然と見つめながら、少しだけ微笑ましい気分になった。
「なんというか、綺麗な人ではありましたね。金髪美少女ってドラマじゃあるまいし…」
ふと、さっきの記憶に不快なものが過ぎる。
「…巨乳でしたね」
っていやいや、別に普段からそういうことを気にしているというわけでもなくて、ただよく映えるほど大きいなって、だから嫉妬しているわけではなくて、それでそれで………。
最初のコメントを投稿しよう!