一話

7/11
前へ
/91ページ
次へ
背中の向こう側から寂しくチャイムが鳴り響く。 逆廻美結は、こういう入学式だとか○○式の日の時間割が嫌いだ。 だってどう考えても非効率だ。それなら入学式やら始業式の午後の時間帯も使って学期最初の準備だとか体力テストとか、やることをさっさとやってしまえばいいのに。 とは言っても、彼女自身は自宅の方が好きな人なので、こういう早帰りの日、本当はまったく嫌ってなどいないのだ。本人はそれに気づいていない矛盾だ。 だが、今日はそれを鑑みても前者の感情の方が勝る。早く『大人』になりたい今の彼女は毎日でさえルーズなものに思える。 「ねぇー、美結!」 後ろから駆けてくる声。 「…もう、何なんですか、渦巻さん」 そんな美結にとって、渦巻マキの存在は大きな不安要素であった。 「待ってよ、何を急いでるのさ」 「別に、急いではありませんよ?」 平然と答える。実際に、本人は美結は別段急いでいるつもりも焦っているわけでもない。 「えっ、でも結構早足だったじゃん」 「渦巻さんの足が遅いだけです」 完全に拒絶態勢な美結。マキの方も、若干意地になっているようで、足を早める美結にさらについていく。 「そんなことないよ、今だってもっと足早めてるでしょ」 「それは渦巻さんがしつこいからですよ」 「そんなしつこくしてないよ。それに、そっちこそなんでそこまでして嫌がるの?」 「生理的に無理です」 ちなみに、胸がでかくて気に入らないという先入観も含まれる。もちろん、一緒にいたくない理由もあるにはあった。 「そ、そこまで?」 「無理です」 キッパリと嫌いだと言われたようなものだ。マキもさすがに顔が引きつっている。 しかし、マキはもう走り出しそうな勢いの美結にぴったりと付いてまだ離れない。 「いいもん、そこまで言うなら友達になってくれるまで諦めないもん」 「迷惑です」 「知らないよ」 「自分勝手ですね、恥ずかしくないんですか?」 「美結だって協調性が皆無でしょ」 そして、ああ言ったらこう言い返し、こう言ったらああ言い返すという鼬ごっこを続け、やがて両者は睨み合う形になっていた。 「ここまで鬱陶しい人は初めてですよ、何なんですか、何か知能障害でももってるんじゃないですか!」 「そっちだってトゲトゲしちゃって、絶対友達とかいないでしょ!そんな風だから嫌われちゃうんだよ!」
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加