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滅亡チョコレート
「世界が…滅びる…」
2月の冷たい夜風に紛れるように聞こえて来たのは、俺の横で輝きに満ちた町並みを見下ろす金髪の少女が放った物騒な言葉だった。
「あの真紅の輝きは間違いなくこの世に終焉をもたらす存在よ…。皮肉ね、聖人バレンタインの犠牲で生まれた愛し合う者同士が愛を伝える神聖な日に世界が終わってしまうだなんて」
少女はどこか諦観したような表情で、手提げ袋から小さいが可愛らしい包装の為された小箱を取り出した。
「世界が滅びれば記憶も消滅する…。だからこそ、私は世界で最後に貴方に伝えるわ。勇気を持って、積年の想いを、この愛の結晶で!」
勢いよく差し出されたそれを受け取って、お返しに俺はその子の頭に手を置いた。
「うん、大仰な照れ隠しは良いから素直に渡そうな」
「ううう…だって恥ずかしいし…」
俺の彼女はちょっぴり中二病だ。だがそれがいい。
俺の彼女は、世界滅亡の日も可愛かった。
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