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「突然現れて横からかっさらっていったくせに。ざまーみろってのよ」
「はい?」
「ゆうちゃんと付き合ってるあなたは、これからゆうちゃんの新しい表情をいっぱい見れる。だけど、私はこれしかないの。ゆうちゃんの逃げ場でいることしかできないの」
「……あんた」
「その先は言わないでね」
ぴしゃりと俺の言葉を止め、彼女は唇を噛みしめた。
その瞳に、うっすらと涙が溜まっているのは気のせいかな。
「情けない事言ってたら奪っちゃうから。しゃきっとしなさい! しゃきっと!」
バシン! と背中を叩いて、彼女は逃げるように走り去ってしまった。
呆気にとられてその背を見つめていると、途中で振り向いて舌を突き出された。
……あれが、年上の女がする事かよ。
乾いた笑いが込み上げ、じんじんと痛む背中に自分の情けなさが募った。
ガキだ。俺は。それも、どうしようもないガキだ。
同時に、神谷の顔が脳裏に浮かんで会いたくなった。
さっきまで一緒にいたっていうのに。いつの間に、俺の中でこんなにも神谷の存在が大きくなっていたんだろう。
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