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神谷を送り出してから、やる事もない俺は街をふらふらとぶらついていた。
時々、「佐野郁斗ぉ!?」と目を見開いてLINEのIDを聞いてくる子はいたけど、丁重にお断りをした。
だってもう、神谷が傍にいてくれる。だから、嫌われないようにと取り繕わなくてもいい。
両親に迷惑をかけたら、なんて気にすることもなくなった。
もっと早くにできていたら、何かが変わっていたのかもしれない。
だけど、あんなどうしようもない俺だったから、神谷とこんな関係になれたのかも――という確信もある。
過去があるから、今の俺がある。
そう思えるようになったのは、確実に神谷のおかげだ。
「佐野くん?」
またナンパの類かとげんなりしながら振り返ると、化粧っ気のない小さな女がちょこんと立っていた。
「……真壁の、いとこサン?」
「こんにちは」
頷いて挨拶をしてくる彼女は、大学で見る時よりも化粧が薄く幼く見えた。
服も、デニムにTシャツというラフな装いで声をかけられなかったら気付かなかったかもしれない。
「ゆうちゃんはバイトだっけ。佐野くんはする事ないの?」
うっ。笑顔で告げられた問いに、矢が刺さったように胸が痛んだ。
親から毎月大層な金額が振り込まれている俺は、バイトなんぞした事がない。神谷しか知らないその事実をちくりと刺されたでようでなんとも居た堪れない。
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