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日照権
アパートの向かいにあるビルが取り壊された。
もう誰も使っていない雑居ビルで、近隣住民に邪魔にされながらも長いこと放置されていたのだが、先月、こっそり入り込んだ浮浪者が小火を出しかけたことが理由で、このたびめでたく取り壊されることになったのだ。
さて、ビルがなくなった翌日から、俺の環境は…いやアパート住人の環境は一変した。
めちゃくちゃ日当たりがいい!
明るい。暖かい。洗濯物もよく乾く。
夏場はかなり暑そうだけど、それはその時考えるとして、今現在はいいことづくめだ。
でも一つだけ、勘弁してくれよということができた。
以前は雑居ビルの影が落ちていた部屋に、たまに、違う影が差すことがある。
眼の前の空間には何もないのに、ロープにくくられたような人影が、俺の部屋に差し込んでゆらり、ゆりと揺れる。
もう取り壊されたあのビルで、昔、何があったのかは知らない。でも、この影が示すようなことがあったんだろうな。
一日部屋にいる訳じゃないけれど、あんなものが見えるのは心理的によろしくない。これはもう引っ越すしか…いや、しょせんは影が落ちるだけだから…そうだな、今度の休みに厚手のカーテンを買ってこよう。
せっかく日当たり良好の、明るく温かな部屋になったんだけどなぁ。…さらば俺の日照権。
日照権…完
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