忠告

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 優しい彼があんな風に、人を蔑んだり傷つけたりしないことはわかっている。夢だとはっきりわかっているのに、それでもやはり胸が痛んでしまうのは未練だろうか。 「あーもう遅刻ギリギリか」  二日酔いでぐらつく頭を押さえながら、ふと時計を見ればなかなか際どい時間だ。 「あれ、もしかしてまた脱ぎ散らかした?」  掛け布団を剥いで起き上がり、重い身体を大いに伸ばす。そして一糸まとわぬ自分の姿を見下ろして、俺は小さく首を傾げた。  普段から飲んで家に帰ると、玄関からリビングにかけて着ていた服が歩いた場所に添って点在していることがある。見当たらない服を探して視線をさまよわせれば、着ていたシャツとスラックスはクリーニングから戻り、部屋のドアノブに引っかかっていた。 「またミサキちゃんのお世話になっちゃったかな」  毎度酔いつぶれた自分を道に放り出さずにいてくれる彼女の優しさに感謝しなければ。そう思いながらドアノブに引っかかった袋を掴むと、紙切れが一枚ひらりと落ちた。  とりあえずシャワーだけは浴び、身支度を調えてフロントへ向かった。すると見飽きた、いや見慣れた顔がこちらに向かってひらひらと手を振っている。 「渉くんおはよう」  その顔に眉をひそめれば、男は更にニヤニヤと笑い口角を上げた。 「今日も綺麗だね。俺チョイスのシャツがいい感じ! 寝顔もすげぇ無防備で可愛かったよ」 「あのさ、新しいシャツには礼を言うけど。客の部屋に勝手に入って寝込み襲うのがここのサービスなわけ? 金取るよ篤武」 「あ、残念ながら悪戯はしなかったんだなぁ」 「どういう日本語だよ。意味わかんないんだけど」  シャツから落ちた紙切れをフロントに叩きつけ目を細めれば、篤武は不満げに口を尖らせた。
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