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「たまには相手してくれてもいいじゃん。優しくするよ」
紙には篤武の携帯番号と恐らくホテルの住所と部屋番号と思しきものが書かれていた。
「嫌だね。君はどうしたってネコにならないじゃない」
「あったり前でしょ。こんな美人押し倒さなくてどうすんの」
そう言ってカウンターに置いた俺の手を掴むと、篤武は両手でそれを握り締めながらしつこいくらいに撫で回す。
均整の取れた身体つきや人好きのする柔和な顔立ち。篤武の見目形は充分好みではあるが、この変態臭さはいただけない。
「いいよなぁ、肌は真っ白ですべすべだし、髪はサラッサラだし、唇は桜色で柔らかいし。ああ、マジもんの金髪緑眼ってホントたまんないよなぁ」
「俺は君のそういうとこ、たまらなく嫌いだけどね」
実感こもった篤武の口調に軽く顔が引きつる。いつまで経っても離す気配のない手を振り払って、顔をしかめればますます篤武の顔がにやけた。
「めちゃくちゃ年齢不詳だけど、そういや渉さんって今いくつ?」
「……君の歳に九つ足せばわかるんじゃない」
「んー、俺の歳に……九つ! マジかよ」
「煩いし、顔が気持ち悪い」
指折り数えて一人喚く篤武の頭に一万円札を叩きつけて、俺は足早にホテルのロビーを後にした。
「ったく、朝から更にテンション下がるなぁ」
今に始まったことではないが、あの篤武のアプローチは身の危険を感じざるを得ない。そもそも自分をその対象に見る男が減ってはいるが、全くいなくなったわけではなく。下手に誘いに乗ると痛い目を見る。
「篤武みたいなのは尚更タチが悪いし」
もはや二日酔いなのかなんなのか、わからない頭の痛みにため息を吐きつつ、俺はいつものように陽射し避けの淡いブルーのサングラスをかけた。そして目の前を過ぎそうになったタクシーへ手を上げる。
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