忠告

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 彼は諦め組なのでいつものようにさして気にせず、おはようございます、と小さく返事をする。  瀬名は力仕事が専門だが、背の高さも相まってそれほど厳つさがないのがいい。生真面目そうな雰囲気と目鼻立ちのはっきりした顔立ちで好青年という印象。ただ、いい男だとは思うが正直それほど好みでもない。 「瀬名くんは今日も爽やかだねぇ。目も酔いも覚める」  軽くそう笑えば、瀬名は大きくため息をついた。 「……ですよ」 「ん? なに」  急にぼそぼそと話しだす瀬名に首を傾げると眉間の皺が更に深くなった。 「気をつけたほうが良いですよ」 「なにを?」  今日は珍しくご機嫌斜めだ。言葉尻に苛々した雰囲気が感じられる。彼はこの若者集団の中の年長なので、いつもはそれほど感情的になることは少ないのだが。物珍しさでじっと瀬名の顔を見つめれば、顔が更に強張りだし怒りゲージが上がった気がする。 「自分の行動、気をつけたほうが良いですよ。本気にする奴もいないわけじゃない」 「……はは、まっさか。おっさん相手に本気も何もないでしょ。君と俺でさえ八つ離れてるんだよ」  怒りの着地点に思わず目を丸くしてしまう。瀬名にそんなことを気にされているとは夢にも思わなかった。しかしこれでも相手は選んでいるつもりだ。初見で危なそうなのは最初から省いてる。 「歳とかそんなんじゃなくて、もうちょっと自分の見た目を自覚したほうがいい」 「あー、はいはい。気をつけまーす」  笑ってその場を過ぎようとした俺の腕が力強く引かれて、後ろへ身体が傾く。数歩足を動かして何とか踏み止まりながら、腕を掴む手と俺を見下ろす顔を見比べた。 「ふぅん、ご忠告ありがとう。そういう瀬名くんが一番危ないのかな」  切羽詰まったような顔をする瀬名を見上げ眉をひそめれば、日に焼けた肌からでもはっきりわかるほどその顔が朱色に染まった。
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