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我ながら最低だとは思う。適当に摘んで適当に遊んで、これで振られないほうがおかしい。もはやある種の癖とも言えるこの行動に頭が痛む。しかし今更自己嫌悪に陥ったところで、済んでしまったことはどうしようもない。
「どうしたの」
「んーん、なんでもない。俺そろそろ行かないと、ミサキちゃんに用があって」
「えー、もう? もうちょっとしようよ」
身体を起こして抱き寄せた彼の頬にキスを落とせば、不服そうに唇を押し当てられた。
どうしてこうも俺は意志が弱いのだろう。流されるだけ流されて、適当にその場をやり過ごしてしまう。根無し草のように揺らめいて、一つのところにとどまろうとしない。
「で、もう一回いただいちゃったわけ?」
からんからんと乱暴にグラスに放り込まれる氷の音がなぜか耳に痛い。更に琥珀色の液体が溢れ出すほどの勢いでそのグラスをカウンターに置かれ、肩が跳ねた。
「ミサキちゃん顔怖いよ」
あれから更に時間は過ぎ、ホテルを出たら二十二時を回っていた。そうして今し方ラビットへ来たのだが、店先で別れたその子とキスしていたのを思いきりミサキに目撃された。
「昨日振られたって泣いてた男はどこの誰でしたっけ」
「誰だっけ?」
ミサキの剣幕にへらりと誤魔化すよう笑うと、目の前に置かれたナッツが皿から盛大に飛び散った。カウンターの向こうでガツガツと無言のまま氷を砕いている姿に背筋が冷える。
「いや、俺もさ。まさかとは思ったんだけどねぇ」
「渉ちゃんのそれは、ちょっと病気よ」
「ちょ、危ないよっ」
急に目の前へ突き出されたアイスピックに、思わず身体が後ろへ反れる。
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