悪癖

4/7

234人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
「一途なわりにその癖ホント治らないわね。なんで誘われたからってすぐ喰っちゃうのよ」 「んー、男の本能? ……ってマジで危ないからっ」  ため息交じりのミサキに乾いた笑い声を上げた瞬間、目の前にアイスピックが突き刺さった。 「渉ちゃんは悪い子じゃないと思うけど、こればっかりは呆れるしかないわね」 「ごめん」 「気をつけないとそのうちまた刺されるわよ」  うなだれ肩を落とした俺の頬を軽く数度叩きながら、ミサキは散らかったカウンターの上を片付ける。しかし彼女の心配はもっともで、またと言ったその言葉通りあちこち手をつけた結果、何度か殺傷沙汰になりかけたことがある。 「怒ってもいるけど、心配してるんだからねぇ」 「反省します」  と、毎回思うのだけど。どうしたらこれが治まるのかが謎過ぎて、自分のことながら辟易してしまう。以前はここまで酷くなかった気もするのだが、いつからこうなったかさえも思い出せない。 「人肌恋しいのかなぁ」  誰かと肌を重ねているあいだは寂しさが紛れる。ふとそんなことを思いながら首を傾げると、ミサキに大きなため息をつかれてしまった。 「今日は少し飲むの控えなさいよ」 「そうだ俺、昨日ここの支払いちゃんとした?」  ミサキの叱咤にふとここへ来た目的を思い出す。今朝、財布を確認したら札が減っている形跡が全くなかった。酔っ払ったままツケにしてしまっているのだろうと思い来たのだが、俺の言葉にミサキは目を丸くして固まった。 「え? 覚えてないの」 「なにを?」 「ちょっとやだ、渉ちゃんっ、あんたもうしばらく飲むの止めなさいよ」  さっと青褪めたミサキの顔に今度は俺が目を丸くした。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

234人が本棚に入れています
本棚に追加