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首を傾げれば慌てふためいたミサキが、急になにかを確かめるように俺の身体中を触りまくる。
「なんにもなかったわよね? 変なことされなかった?」
「あのさぁミサキちゃん、俺にわかるように言ってよ」
あたふたするミサキの手を掴んでとりあえず落ち着かせると、ごめんごめんと謝りながら彼女は大きな深呼吸を繰り返す。
「昨日の帰り、あっちに座ってた彼と一緒に帰ったの覚えてない?」
「は?」
間抜けた声を発しながらミサキが指差すほうへ視線を向ける。そこはカウンターの隅。昨日初めて見かける客だと彼女に言った、見慣れない若い男が座っていた場所だった。
「全く、というか顔すらわかんないんだけど」
「嘘っ、ホントに何もなかった? 名刺置いてったからちょっと安心しちゃってたんだけど」
「んー、じゃあ篤武のホテルに俺を泊まらせたのも、クリーニング出したのもミサキちゃんじゃないの? それとも覚えてないだけで自分でやったのかなぁ」
「暢気なこと言わないでよぉ」
「は? なにそれ」
情けないミサキの声に思わず首を捻る。
「そのシチュエーションで、なんで俺がなんかされることになるわけ? 普段通りいったら逆でしょ?」
今し方節操がないと小言を言われていたのに、なぜそこまで彼女が焦るのかがわからない。
「馬鹿、酔っ払ってる時の渉ちゃんは危ないのよ。ムラムラするから」
「……ミサキちゃんにムラムラされても困るんだけど」
鼻息荒く答えられ、思わず顔を引きつらせると急に頭が痛くなってきた。とりあえず今日は飲むのは止めて家に帰ろうと思った。
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