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すごく大好きで、愛おしくて、彼がいるだけで世界が眩しくて、真っ白な輝きに満ちていると思えた。それは大げさなんかじゃなくて、俺にとってはそれくらい彼の存在が大きくて、心の安らぎでもあり、支えでもあった。
けれど彼は――気持ちには応えることができないと、今にも泣き出しそうな顔をして言った。そしてそんな彼の背中を見つめて泣いたのは自分だった。
こんな苦しい想いをするくらいならずっと押し込めておけば良かった。好きだなんて告げなければ良かった。何も言わないままでいれば、まだ彼の傍にいられたのに。彼が去って行った後には俺の中に後悔しか残らなかった。
あの日から何度も彼のことを思い出したけれど、胸が苦しくなるばかりだった。会いたいと思うのに、もう会えない。どんな顔をして彼の前に立ったらいいのかがわからない。
最後に残った記憶があんな悲しい顔だなんて、ひどくやるせない気持ちになる。いつだってあの子は優しい笑顔で笑っていたのに、その笑顔を塗りつぶしてしまった。
「渉ちゃん、ほらぁ飲み過ぎ」
力強く肩を揺さぶられて重たい頭を上げると、眉間に皺を寄せ俺を覗き込む男がいた。いや、スレンダーボディに長いウェーブの髪が印象的な、自称三十五歳、女と言い張るミサキがいた。
「ちょっと、今すごい顔をしかめたでしょ」
「気のせいだよ。ミサキちゃんの美しさに目が眩んだだけ」
「嘘ばっかり」
不満げに口を尖らせたミサキは、目を細めて訝しむように俺の顔を見つめる。
「ほんとだってば」
彼女は薄化粧の下に男っぽさが見え隠れする些か男性的な顔立ちではあるが、素材が良いので美人の部類に入る。彼女の見目の良さはなかなか評判が良い。
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