失恋

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「今日も盛況だねぇ」 「おかげ様で、渉ちゃんが寝てる間にいっぱいよ」  そんな彼女はこのラビットというバーのママに当たるわけだが、こぢんまりとした店内の客は見渡す限り男。中には彼女のように女性的な格好をした子達もいるが、やはり基本男ばかり。ここは生粋の女子は立ち入り禁制のゲイバーだ。そしてそこに入り浸る俺はこの店の常連である。 「ミサキちゃんおかわり」 「寝ながら飲んでる男がなに言っちゃってるのよ」  没収と、手にしたグラスを片付けられてしまい、俺は小さく口を尖らせてカウンターに頭を乗せた。 「俺さぁ、振られちゃったんだよね」 「え?」 「俺じゃ駄目なんだってさ」  独り言のように呟いた俺の言葉に、ミサキの気配が一瞬張り詰めた。けれど小さく吐き出されたため息と共に、それはすぐにかき消える。 「しょうがないわよぅ、あの子は元々ノンケだし」 「……どんな女と付き合っても我慢出来たけど。ぽっと出の男に持っていかれるなんて、悔し過ぎて涙しかでない」 「嘘っ、まさか、あの子が?」  ほんの少し上擦った声と見開かれた目が、いかにそれが信じ難いことなのかがわかる。大体この俺が誰よりも一番にまさかと、信じ難く思っている。 「ほんと完全にやられたって感じ」  自嘲気味に笑った俺の顔を見る彼女の気配が再び強張った。宥めるように俺の頭を撫でる手が微かに震える。人の痛みを自分のことのように感じる、それが彼女の優しさだ。 「そう、そうだったの。それは悔しいわねぇ。泣いちゃうわよねぇ」 「俺、本気で佐樹ちゃんのこと好きだったのにな」 「そうね」  仕事の合間、彼と会ったのは本当に偶然だった。
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