失恋

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 久しぶりに会った彼は見ているのが嫌になるくらいすごく幸せそうで、一緒にいた相手の男を見つめる彼の目が優し過ぎて――俺は自分でも驚くほどに焦った。  彼はとても優しい人だが、今まで恋愛に対してどこかドライだった。だからそんな風に、誰かを見つめる彼の姿は見たことがなかった。そしてこのまま自分の前から消えてしまいそうな彼を、どうしても繋ぎ留めたくて、俺は思わず告げてしまった。  愛しているのだと――。  でも彼の中で俺はそんな位置にすら立てない存在だった。俺は長く彼のいい友人であり過ぎた。 「やっぱり俺と佐樹ちゃんじゃあ、縁がなかったのかなぁ」  彼と出会ってもう十五年程になる。ずっと傍にいた彼に、好きだという想いを抱いたのは五、六年くらい前からだ。片想いだとわかっていながら、これほど長く人を好きだと想い続けたことは他にはない。初めから叶わない恋だと諦めていたのが仇になったのか。  いや、きっと初めから彼と俺の間には、赤い糸は結ばれていなかったのだろう。そうでなければこんなにあっさりと、彼を他の男にさらわれるはずがない。 「もう、早く忘れて新しい恋しなさいよ」  困ったような笑みを浮かべ小さな俺の声に肩をすくめたミサキは、カラリと氷が鳴るグラスをカウンターへ置く。 「どっかに俺好みな可愛い子、いないかなぁ」  俺よりも泣きそうな顔をするミサキに、そう言って笑みを浮かべて見せる。するとほんの僅か肩の力が抜けたのか、つられたようにミサキが笑った。 「渉ちゃんはそうじゃなきゃ」  けれど去り行く彼の背中が思い出され、鼻の奥がツンとした。縁など繋がっていなくても、それでもまだ俺は彼が愛おしくて仕方がなかった。
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