第1章

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「この木だよ。ガキの頃よく登ってさ、夕日を眺めたりしてたんだよ。誰も知らない俺だけの特別な場所って思ってたんだ。この木って公園で一番高いんだぜ」 「へえぇ、こんなの登れるんだぁ」 「見えるか?あそこ。いちにいさん…七つ目の木の枝が出てるとこ。あそこが俺の特等席だったんだ」 「うわぁ…うちの子があんな所に登ってたら失神してしまうわ」 「まぁ確かに…俺も親になって分かったわ。でもあの頃の俺にはさ、世界中で唯一、俺だけの場所だったんだ」 ―覚えてるさ。 まだ小さかったきみが、わたしによじ登って来ていたのを。 わたしはきみが落ちないかヒヤヒヤしたものだ。 わたしの腕に抱えられたきみは、キラキラした目で遠くを見ていたな。 何か悲しいことがあって、わたしに抱かれながら泣いたこともあったよな。 わたしには見守ることしかできなかったが。
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