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そのせいか、ナツコさんが忙しく、他のテーブルについていて、なかなか私のところに来てくれないこともあった。
やっと私の席に「ただいま~!」と可愛い声で帰ってきても、「俺もう帰るわ!」と言って帰ってしまったり・・・。
そんな時はいつも、店の外まで追いかけてきてくれて、私の腕にしがみついてくれた。
「もう~、すねないでよ~パンドラちゃん・・・。」
本当は、私の席に帰ってきてくれて、嬉しいのに、素直になれなかった。
「ね、機嫌直して戻ろう!」
そう言ってくれて戻ることもあれば、なっちゃんの手を振りほどいて帰ってしまったりしていた。
そんな時、いつも、なっちゃんはこう言ってくれた。
「もう~、パンドラちゃんのバカっ!また来てね!待ってるよ!」
背中越しに聞く、そんな言葉が嬉しかった。
そんな日々を一年ほど過ごしたある日。
とうとう、私の生き方を変えたある出来事が起こった。
その日、いつものように「ひじり」で相当飲んでいた。
隣にはなっちゃん。
「いらっしゃいませ!」
3人組の男の客が入ってきた。
その内の一人が、あるTシャツを着ていた。
「○○プロレス」
メジャーなプロレス団体の名前が書かれていた。
「おっ!なんや、○○プロレスやんけ!」
私は中学生からボクシングを始め、プロを目指していた。
そのせいか、怖いものがなかった。
隣に座っているなっちゃんにも、良い恰好を見せたかったというのもあったのだろう。
「パンドラちゃん、やめなって!」
立ち上がってる私の腕を引っ張りながら、なっちゃんは言った。
私は酔いのせいもあり、そのプロレスのTシャツ男を睨みつけていたらしい。
「なんや、兄ちゃん、えらい威勢がエエな!」
「Мさん、この子、Мさんと同じプロボクサーを目指してる子なんよ・・・。」
心配そうにマスターが、Мさんに声をかけた。
どうやら、「ひじり」の常連さんらしい。
「兄ちゃん、プロ目指してんのか?ちょっとこっち来てみ。」
Мさんは元プロボクサーだった。
私はえらい人にケンカを売ってしまったらしい。
<つづく>
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