Mさん

2/6
前へ
/18ページ
次へ
そのせいか、ナツコさんが忙しく、他のテーブルについていて、なかなか私のところに来てくれないこともあった。 やっと私の席に「ただいま~!」と可愛い声で帰ってきても、「俺もう帰るわ!」と言って帰ってしまったり・・・。 そんな時はいつも、店の外まで追いかけてきてくれて、私の腕にしがみついてくれた。 「もう~、すねないでよ~パンドラちゃん・・・。」 本当は、私の席に帰ってきてくれて、嬉しいのに、素直になれなかった。 「ね、機嫌直して戻ろう!」 そう言ってくれて戻ることもあれば、なっちゃんの手を振りほどいて帰ってしまったりしていた。 そんな時、いつも、なっちゃんはこう言ってくれた。 「もう~、パンドラちゃんのバカっ!また来てね!待ってるよ!」 背中越しに聞く、そんな言葉が嬉しかった。 そんな日々を一年ほど過ごしたある日。 とうとう、私の生き方を変えたある出来事が起こった。 その日、いつものように「ひじり」で相当飲んでいた。 隣にはなっちゃん。 「いらっしゃいませ!」 3人組の男の客が入ってきた。 その内の一人が、あるTシャツを着ていた。 「○○プロレス」 メジャーなプロレス団体の名前が書かれていた。 「おっ!なんや、○○プロレスやんけ!」 私は中学生からボクシングを始め、プロを目指していた。 そのせいか、怖いものがなかった。 隣に座っているなっちゃんにも、良い恰好を見せたかったというのもあったのだろう。 「パンドラちゃん、やめなって!」 立ち上がってる私の腕を引っ張りながら、なっちゃんは言った。 私は酔いのせいもあり、そのプロレスのTシャツ男を睨みつけていたらしい。 「なんや、兄ちゃん、えらい威勢がエエな!」 「Мさん、この子、Мさんと同じプロボクサーを目指してる子なんよ・・・。」 心配そうにマスターが、Мさんに声をかけた。 どうやら、「ひじり」の常連さんらしい。 「兄ちゃん、プロ目指してんのか?ちょっとこっち来てみ。」 Мさんは元プロボクサーだった。 私はえらい人にケンカを売ってしまったらしい。                            <つづく>
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加