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「じゃ、またこの次」
開かない目で微笑んで師父は辞す。
――カツ、カツ、カツ、カツ……。
家内に戻りつつ規則正しく響いてくる杖の音に翠玉は幾ばくかの安堵を覚えた。
きっと、師父が帰り着くまでに雨は降らないでいてくれるはずだ。
鼻を通り過ぎる湿った路地の匂いに胸の奥が微かに疼くが、小さくかぶりを振りながら廊下を進む。
「お師さんは帰ったの」
不意に横から声が飛んだ。
小娘はびくりと足を止める。
「金璉姐さん」
いいや、これは大丈夫な時の顔だ。
どこか雌牛じみた女にしてはやや厳つい肩の上に乗った、化粧気のない顔に漂う人懐こい笑いから翠玉は察した。
今年、二十二歳になるこの姉芸妓は機嫌が良い時は一番小さな自分にも気前良く接してくれるのだ。
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