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「どうしたら、彼女にこの愛をうまく伝えられると思う?」
「……ごふっ、く……っ、」
湯気の立っているコーヒーにゆっくりと唇を近づけた時、向かい側に座る友人のその言葉に息が漏れ、そのせいで跳ね返ったコーヒーが俺の顔に飛び散った。……最悪すぎる。
慌てて差し出されたヨレヨレのハンカチを拒否し、自分のポケットからハンカチを取り出す。まぁ、俺のもヨレヨレなんだけど。
「……で?どうしても相談に乗って欲しいと言ってたことは、これか?」
「うん。俺、どうしたらいいか分からなくて……」
こんな恥ずかしいことを相談できるのはお前しかいないと、友人は照れたように頭を掻いた。
こんな恥ずかしいこと?そうじゃない。こんなくだらないこと、の間違いだろ。
俺は顔を拭くと、改めてカップを手に持ち、さっきよりも慎重に口へと近づけた。それから一口、ゆっくりとコーヒーを口に含む。
珍しく早く仕事が終わり、真っ直ぐ帰ろうと思っていたのに。こういう時に限って、仕事じゃない何かにその帰宅を邪魔されてしまう。
「“ねぇ、私のこと好き?”って最近よく聞いてくるんだよ。“どのくらい好き?”って、暇さえあればそればっかり。なぁ、俺のこの愛……、伝わってないのかな?」
「はぁ……」
聞けば半年前にできた彼女らしい。仕事で会えない日も連絡をきちんと入れているし、休日も二人きりでゆっくりと過ごしているとのこと。それで十分なんじゃあないのか?俺には彼女というものはいないし、女の考えていることなんかちっとも分からない。
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