この想いを、唇から。

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すーすーと可愛い寝息を立てながら、気持ち良さそうに眠る彼の寝顔にキスを落とした。 唇はどうしてもダメな気がするから、いつもいつもそこへ顔を近づけては諦め、結局は頬や目蓋へのキス止まり。寝ているのだから唇にしたところで、バレることはないだろうに。 「ははっ、」 弱虫な自分に、小さな笑いがこぼれる。 でもね、分かっているんだ。 そうすることができないのは、彼への罪悪感だけじゃあないって。 本当のところは、気持ちのないキスでは俺の心が満たされないから。 彼を好きな分、自分が傷つくのが怖いんだ。 俺たちは幼なじみで、小さい頃からずっと一緒にいた。 俺より一つ年上の彼は、たった一つしか変わらないのに、俺にとって頼もしい兄貴的存在だった。 たくさんの人に囲まれる彼を誇らしく思いながら、いつもいつも彼にくっついていた。 大きな背中からは強さと優しさが溢れていて、いつか俺もこんなふうになりたいと、憧れを抱いていた。 高校に入ってすぐに俺の身長は一気に伸び、いつも見上げていた彼を追い越した。 体格も俺のほうが良くなって。 たぶん、その頃くらいから。 それまでずっと大きくて頼もしいと感じていた彼を、俺が守りたいと思うようになった。 兄としての愛情より深い、たった一人の大切な人への特別な感情。 だけどそれはきっと叶うことのない想い。 彼を好きになった喜びがある反面、どうすることもできない悲しさに、俺はしばらく苦しんだ。
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