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このタイミングでまだスイカを食べるのかと、ますますどうしたら良いのか分からなくなっていると、由貴は残りの一つも手に取り、相変わらず目線は逸らしたまま、俺にそのスイカを突き出した。
「スイカ、食べて」
「え?」
「食べてよ、」
「由貴?」
「……。」
今はスイカを食べたい気分ではないけれど、こうして渡されたら食べるしかない。仕方なく受け取り一口食べると、由貴がまたピタリと俺にくっついてきた。
「由貴……?」
「食べ終わって、から、」
「……え?」
「……そ、そーゆーことは、全部、食べ終わってからでしょ……?」
「えっ、」
それってもしかして?と聞き返すと、由貴は無言でまたスイカを食べ始めた。髪の間から覗いている耳が真っ赤になっている。
それを見たら、もしかして?と聞いたことがばからしくなってきた。聞くまでもないや。
「……大地」
「ん?」
「俺だって、」
「うん、」
「何も考えてないわけじゃ、ないんだから、ね。スイカ食べにおいでって、そう言ったのも、俺だって、少しはそういうつもりがあって、」
「……ん、」
「……お、俺ね、」
大地のこと好きだもん、とその後に続けられた言葉に胸がキュンとした。色々考えて悶々としていたのは俺だけじゃなかったってことも嬉しいし、そして何より由貴が俺のことをそんなにも想ってくれてたことがたまらなく嬉しい。
……好きだなぁ、由貴のこと。本当に、大好き。
「ねぇ、由貴」
「な、に?」
「今度こそ、スイカの早食いしませんか……?」
そう言って微笑むと、由貴は一瞬キョトンとしたものの、小さくこくりと頷いて、それから真っ赤な顔で笑ってくれた。
END
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