可愛い君

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「横沢、人のいないとこがいいだろ?屋上行く?」 「……うん、」 「それとも、ゴミ箱?」 「と、戸田!」 「大丈夫。ゴミ箱だったら、ちゃんと俺ん家のに捨ててやるから」 「嬉しく、ないよぉ……、戸田、ひどい、ひどいよっ……」 俺の背中に回された手に力が入った。シャツ1枚だから、横沢の指先が背中に食い込む。正直に言えば、けっこう痛いけれど。 泣いてる横沢が可愛いから何でも許せる。 横沢は可愛い。でもそれ以上に泣いてる横沢が可愛くて好き。顔はぐしゃぐしゃで、迷子の子どもがお母さんを呼ぶみたいに、横沢は俺の名前を何度も呼ぶんだ。泣いて呂律もあまり回らないその口で。それが、たまらない。たまらなく可愛い。今すぐにでも喰ってしまいたい。 「戸田ぁ、と、だ……っ」 「はいはい」 「戸田……、とだ……」 「はいはい」 抱っこしてると顔が見られないからもったいないな。ねぇ、横沢。俺の腕の中でどんな顔して泣いてるの?俺のせいで、どれだけ泣いた? もっと泣いて。泣いて泣いて、俺の名前を呼んで。 屋上に着くと俺は、それまで抱っこしていた横沢をコンクリートに落としてやった。 「痛っ」 小さく声を漏らし、横沢がぶつけた背中を押さえる。それから潤んだ瞳で俺を見上げた。 あふれる涙が次々に落ちていき、頬にはその痕ができている。教室で見た時よりもひどい顔だ。
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