一杯のコーヒーとたくさんの行く道と

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半分くらい飲み終わってから、えみりはそっとりえみの顔をのぞきこんだ。りえみの苦しそうな表情を見て、えみりは笑顔で言う。 「ねえ、りえみ。私も大人のコーヒーソーダを飲んでみたいな。変えっこしてくれる?」  りえみは一瞬、きょとんとしが、すぐに恥ずかしそうに真っ赤になるとうなずいた。 「私も甘いコーヒーソーダを飲んでみたいと思っていたところ。変えっこしましょう」  えみりとりえみはグラスを交換するとコーヒーソーダを飲みほした。りえみはニコニコと、えみりは渋い顔でグラスを置いた。 「これはサービスです」  マスターは二人の前にアイスクリームを差し出した。えみりとりえみは顔を見合わせにっこりと笑う。 「ありがとう、いただきます」  二人そろってアイスクリームを食べている姿はぴったり揃っていた。スプーンを動かす速さも、口を開ける大きさも、そして笑顔も。二人は食べ終わると「ごちそうさまでした」と行儀よく挨拶した。麦わら帽子をかぶり店を出た。 「ねえ、りえみ。私達もう迷子じゃないわね」 「ねえ、えみり。私達もう道に迷わないわね」  えみりとりえみは手をつないで陽炎の向こう側へ、仲良く歩いていった。 マスターがレコードをフォーレのものに変えていると、店の電話が鳴った。出てみると、コーヒーの出前の注文だった。カフェオレを十杯、陽炎の中の思い出の場所まで。マスターは電話を切るとコーヒーカップを十一個用意して魔法瓶に温めたミルクと湯気の立つコーヒーを注ぎ、いばらのつるを編んで作ったバスケットにブランケットと一緒に入れて店を出た。  店の扉を出た瞬間、太陽が突き刺さったのかと思うほどの日差しと、肌が焼けそうな暑さに包まれて、マスターは額に手をかざして遠くを見た。田んぼはどこまでも続いていて陽炎がそこここに立っている。その中の一つに向かってマスターは歩いていった。ゆらりと揺れる陽炎に足を踏み入れると、マスターの姿は田んぼの風景の中から消えた。
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