真里菜

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当時、わたしが通っていた小学校では、階段の手すりを滑り降りる遊びが流行っていた。 手すりから身を乗り出し、おなかでバランスを取りながら足を浮かせて滑る。 それなりの速度が出る為スリルがあり、見た目もスタイリッシュだったから、これが出来るとかっこいい。みたいなのがあった。 真里菜は、それをしている時に、手すりを乗り越えてしまい、転落した。 一階と二階の間の、踊り場から。 頭から、落ちたのだと、誰かから聞いた。 落ちた所には、彼女の血が、付いている。と。 真里菜は今、保健室にいると言う。 わたしは例の如く、A子と連れ立って保健室へ行った。 そこには、椅子に座って、氷水の入った袋を自分で頭に押し当てている真里菜がいた。 大丈夫? そう訊くと、 「うん」 目じりに涙を残して、彼女ははにかんだ。 階段から落ちたことは災難だったけれど、一躍ヒロインに抜擢されたように注目されて、妙に気恥ずかしかったのだと思う。 わたしは彼女の笑顔にほっとして、 痛い? と重ねて訊いた。 「痛い」 やっぱり照れたように笑って、真里菜は答えた。 それが、真里菜との最後の会話。 真里菜を見た、最後だった。 思ったより大丈夫そうで良かったね、なんて言いながら、わたしたちは教室へと戻った。 その後、真里菜は病院へと向かったらしい。 それきり、わたしは特に真里菜の心配をすることもなく、家に帰り、風呂に入って、ご飯を食べ、眠った。 事態が思わぬ急展開を見せたのは、翌朝、登校した時だった。 「真里菜、大変なことになったらしい」 そう知らせてきたのは、よく喧嘩をしていた男子だった。 別に嫌いな訳ではないけれど、何かと挑発して来るものだから、舐められてたまるかと殴ったり蹴ったりしていた。 普段はおちょくるような顔をしているそいつが、不安と好奇心がない混ぜになった顔をしている。 大変なことって? 訊き返したわたしも、きっと同じ顔をしていた。 「わからない。けど、大変なことになったって」 わたしは、さほど重く捉えることもなく、大変なことって何だろう、と席に着きながら思った。
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