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嫌な雰囲気がして来たのは、もうそろそろ朝の学級会の時間かと言う頃だった。
これと確かな言葉には出来ないのだが、何と言うこともなく、なんだか嫌な雰囲気なのだ。
それは、チャイムが鳴り担任の教師が入って来た時、黒々と形を持った。
「真里菜ちゃんが、昨日の夜遅くに、……亡くなりました」
入って来た時からほとんど泣いているような状態だった教師が、そう言って泣き崩れた。
わたしは、意味が分からなかった。
それは勿論、「亡くなる」の意味なんかじゃない。
今時、小学生だって、「亡くなる」の意味くらい分かるんだ。
そうじゃなくって、わたしが分からないと言ったのは、その言葉が、なぜ、真里菜に対して使われるのか、と言うことだ。
だって真里菜は、昨日普通に笑ってた。
いつもみたいに、笑ってた。会話だってした。椅子に座ってたし、氷水の入った袋を、自分で患部に押し当ててさえいた。
死ぬはずがない。
それが、わたしの出した結論だった。
「昨日、夜九時頃に容体が急変して、それで……」
教師は、涙でも咽喉に詰まったのか、ぐぅと唸って、それ以上は何も言えなくなった。
はあ?
何泣いてんだ? こいつ。
真里菜が死んだ? はあ? 馬鹿じゃねえの? はあ?
元々その教師が嫌いだったわたしは、もたらされた情報の忌々しさも相まって、睨むように彼女を見据えた。
誰か嘘だと言ってくれ。
こんなの嘘だ。絶対嘘だ。ありえない。
周りのみんなは、教師の言葉を鵜呑みにして泣いている。
わたしは騙されないぞ。わたしは真実を知っている。
真里菜は死んでない。死んだりなんてしない。
だって真里菜は元気だった。死んじゃいそうな様子なんて、まるでなかった。
だから、これは嘘だ。嘘なんだ。
そう確信していたのに、その確信は、次に教室に入って来た人を見た瞬間、蝋燭の火がふっと消えるように、見えなくなってしまった。
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