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静かに教室に入って来たのは、副担任のN先生で、彼女は一目でそれと分かる喪服姿で担任の後ろに控えた。
押し黙った彼女の沈痛な面持ちに、わたしは狼狽える。
一年生の頃から副担任をしているN先生が、わたしは大好きだった。
穏やかで優しく、何だって受け止めてくれるような安心感。
幼いながらに、わたしは彼女を先生として、そして大人として、信頼していた。
今でも、昔懐かしい絵本は、彼女のしわしわの落ち着いた声で紡がれる。
そのN先生が、俯いて動かない。背中が力なく丸められているのは、年のせいばかりではない。
わたしは理解した。
真里菜は死んだのだ、と。
全校集会で、真里菜の死が、全ての生徒に伝えられる。
たまらず泣き出す生徒が、何人かいた。
同じ学年でもないくせに。真里菜のことを、何も知らないくせに。何を泣いていやがるんだ。
真里菜の死をあっさり信じ、すんなり受け入れて涙を流す彼らに、わたしはこじつけるような怒りを感じていた。
今なら分かる。
彼らは、真里菜の死を悼んで泣いていたのではない。
初めて経験する身近な人間の死に怯え、思うより先に、泣いていたのだと。
その日の夜、熱を出したわたしは、真里菜の通夜には行けなかった。
思いの外、そのことは長くわたしを縛り付けることになるのだけれど、それはまた後で話そう。
なんとか、葬儀にはゆくことが出来た。
真里菜は、眠っている様だった。
これが”死”と言うやつなのだろうか。
なんとあっけない。
体は全て、揃っている。大きな外傷もない。この体で生きて行かれないなんて、とても思えなかった。
そんな釈然としないながらも、涙を流す大人たちを見てわたしは、真里菜の死を、憮然と受け入れた。
そのまま家に帰り、いつも通りに過ごし、真里菜が死んだこと以外正常な一日を終えた。
翌日の朝のことだ。
家の居間に、大きな箱がある。
箱は、プレゼントみたいにピンク色の包装紙でラッピングしてある。
包装紙は、よく花束をくるんでいる、和紙みたいな紙だ。
それが、風呂敷の要領で箱を包んでいる。
わたしは、不思議に思いつつ、ラッピングをはがして、箱を開けた。
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