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困っていると一枚の桜の花びらが門真の髪に舞い降りた。
僕はそれを取ろうと手を伸ばす。
「キラ、お前なぁ……」
僕が伸ばした手。門真が突然握りしめる。
「……お前、俺との約束。忘れただろう?」
「約束?」
不意にそんなことを言う。そうして、門真は僕の手を握りしめたまま立ち上がり、もう片方の手で僕の髪に触れた。
「チッ。お前が髪を切って貰う時は俺が……て約束」
「あっ!」
僕の父は美容師だった。生まれた時から、僕の髪は父が切っていた。小学二年生の時、父が亡くなった。その日以来、他の人だと悲しくなって騒いで喚いて……。
言葉遣いも少しずつ変わったんだ。
門真は言ったっけ。父以外の人だと僕があんまり悲しむから……。
『髪……いつか俺が切ってやるよ。俺、もっとハサミ上手になる。キラが大丈夫になるまで、ずっと待ってるから』……て。
それまでの門真はハサミが上手く使えなくて、図工で紙を切るといつもガタガタで。今はそれが嘘のように何でもハサミで綺麗に切れる。
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