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「そんな」
自分らしくない。あり得ない。考えられない。二時試験の問題が簡単? そんな馬鹿な。
「嘘だ」
『本当よ』
信じられない。
「なあ、本当の事を言ってくれないか?」
『いいえ、真実よ。貴方はテストを受けて、手応えありと笑っていた。そこに嘘偽りはないわ』
「まさか、そんな」
その後も彼女の話を聞いていたが、どうにも腑に落ちなかった。そう、納得はいかなかったのだ。
だがしかし、である。
俺はそれで呑み込むことにした。
「彼女は正しい」
そう、彼女はいつだって正しいのだ。俺のような愚者は、彼女の言う事を馬鹿のように信じていればいい。そうすれば安穏が得られる。何より彼女に刃向かって見捨てられるのはゴメンだ。
俺は今日、二時試験を受けたのだ。そうに違いない。
※
「あとちょっとで合格発表だね」
「あ、ああ」
気付けばもう三月。信じられない。つい昨日が二時試験だったようにすら思える。卒業式が終わったという実感すら湧いてこない。
本当に今日が結果発表なのだろうか。
辺りをぐるりと見渡す。
目に映るのは俺や彼女と同い年ぐらいの人の群れ。決して数は多くはない。そんな群れの視線は一様に一点を見ている。幕で覆われた掲示板だ。この布の向こう側には、今回の受験の結果が張り出されているのだろう。皆、早くそれが知りたいのだ。
今日、合否が分かる。それを再認識したせいだろうか。緊張に呼吸が乱れる。
「俺、ダメかもしれない」
俺は口に指をあてがって呻く。
きっと落ちている。知りたくない。でも知らねばならない。相反する矛盾した思いに、身が壊れそうになる。
受かっているわけがない。だって俺だぞ? 俺は今ここに集まっている誰よりも劣っている。そんな人間が合格しているとは思えない。
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