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そもそも二時試験時の記憶がないのだ。手応えの一つさえ覚えていないのだから、楽観しろというのは無理である。落ち着けない。
「結果が発表されるみたいよ」
彼女の一言に、俺は顔を上げる。幕を取り払う二人の職員と思われる男性の姿が目に映る。そうして大きな用紙が貼られた掲示板があらわになった。その用紙には数字――受験番号が羅列されている。
――歓声――慟哭――喝采――号泣――
周囲の人々は自身の感情を剥き出しにして騒ぐ。その叫びの中で、俺は自身の番号を探す。緊張からか、中々確認できない。
まず先に彼女の番号を見付けた。流石、才女。それに引き換え俺は――
「あ」
あれ?
「受か……ってる?」
二度、三度と番号を確認する。しかしそこには間違いなく自身の受験番号が刻まれている。間違いなく、間違いない。だが、信じられない。俺如きが合格出来る大学ではない筈なんだが。
「ね、だから言ったでしょ?」
受かった。そうか、合格したのか。そうか、そうなのか。俺は受かったのか。
喜びによる興奮。この感情の昂りを誰かに伝えたいという衝動。血は騒ぎ、心は踊る。嬉しい。嬉しくて仕方がない。
「大学生活、楽しもうね」
彼女は言う。
勿論と答えようとして――そうして俺は固まった。
これから大学生活が始まる。俺にはまだどのようなものか分からないが、そこには留年や退学というものが存在すると聞く。その厳しさは高校の比ではないだろう。しかも俺がこれから通う場所は、俺のレベルより数ランクも高いのだ。
付いて行けるだろうか?
先程の興奮が嘘のように冷めていく。身体が震える。
「ねぇ、俺、やっぱりダメかもしれない」
口から出たのは泣き言だった。
「大丈夫」
彼女は全てを察したかのようにふっと笑うと、俺を優しく抱きしめた。
「大丈夫よ」
――大丈夫なのだろうか。
彼女の腕の中で、俺は訝(いぶか)しむ。しかしその行為が無駄で愚かなことだと俺はすぐに気付く。自分は虫けらで、彼女は女神なのだ。女神の言うことを信じない者には天罰が下るのが世の道理だろう。だから俺は彼女のことを信じる。
大丈夫。そう、俺は大丈夫なのだ。
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