馬鹿で醜悪な愚者

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まず全てにおいて言えることだけど、彼は予防線を張り巡らせているみたい。いや、もうそれは予防線の集合体……バリケードと表現しても過言ではないかもしれないわ。彼はその中に閉じこもっているの。 『自分には出来ない』『自分は馬鹿なのだ』といったその予防壁が、力の発揮を阻んでいるのでしょうね。 彼がそうなってしまったのには大きく二つの理由があると私は考えているわ。 まず彼は毎日のように両親に罵倒されているらしいの。悪い時には手も出るそうよ。 彼はそのことを取るに足らない普通のことのように喋るのが常なのよ。「昨日、父さんに殴られちゃってさー」みたいな。でも、そんなことが『普通』なわけない。許されないことよ。そんな異常な環境に置かれれば、誰だって狂うわよ。 彼が自分へと飛んで来るボールを怖がるのは、それは無意識のうちに両親の拳と重ねているせいなのかもしれないわ。た自分自身を無駄に卑下するようになったのは、この両親の呪詛のような暴言のせいに違いないと思うの。 これが第一の原因で、私が考える第二の原因というのは彼が小学校時代に受けていた虐めによるものだと推測するわ。 彼と同じ小学校に通っていたという私の友人に『どうして虐められていたのか』それとなく尋ねてみたけれど、明確な答えが返って来ることはなかった。彼自身にも訊いてみたけど、やっぱり正確な理由は分からなかったわ。 で、私が思うに、彼の才能に嫉妬した誰かが虐めを始めたのでしょうね。 実際、彼自身から聞いた話では小学校時代の通知表においてはどの学年であってもオールAだったと語っていたわ。 つまり、出た杭は打たれたの。 きっとクラスの人気者が妬んだのね。その人気者がリーダーとなって手下――クラス全員――ひいては学校全体が彼を虐めたのよ。
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