馬鹿で醜悪な愚者

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悪戯か、はたまた夢のどちらかだと最初のうちは考えていた。当たり前だ。自分は馬鹿で醜悪な愚者なのだ。そんな人間が、彼女の人生の一ページにお邪魔するなんて……あり得ない。疑わしいにも程がある。 しかし、蓋を開けてみると全く違ったのだ。 連絡はマメに取り合う。登下校は彼女と手を繋いで一緒に歩く。おまけに二週に一回は二人でお出掛けだ。 悪戯ではないらしいと気付くのに二ヶ月はかからなかった。 嬉しい。 しかし彼女のような才色兼備と並んで歩くのは気恥ずかしいものがある。慣れない。他人の視線がどうも気になるのだ。これが原因で小学生のときのように虐められたり……などという考えが杞憂だったのは嬉しい限りだ。 俺は今、幸せだ。 ただ、それも高校を卒業するまでの話だろう。 二人の間で話し合ったことはないけれど、きっと彼女はどこか都会の優秀な大学に進学するのだ。俺が目指すのは差し出がましいような大学に、だ。そうなれば、その時点でこの関係は崩れてしまう。 それは悲しいことではあるけれど、事実だから仕方がない。 「私、あの大学に進学するわ」 それは付き合いだして約半年ちょっとの時である。俺達が高校三年になったばかりの春。あれは確か、そう、始業式の後、二人仲良く手を繋いで歩いた帰り道のことだ。暖かい日差しに、桜が美しく花開いていたのを覚えている。 彼女の宣言は唐突だった。 やはりというべきだろう。それは誰もが知る有名で優秀な国立大学で、俺はそれに対して「そうなんだ」と素っ気なく答えただけだった。この陽気なまるで夢のような世界で、現実的な話をしたくなかったが故の反応。 しかし彼女は俺のそのような気持ちを無視して更に続けてこう述べた。 「貴方は、どうするの?」 「俺? 俺は」
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