馬鹿で醜悪な愚者

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「大丈夫?」 彼女が俺にそう問うてきたの一度や二度ではない。 「ああ、大丈夫」 俺が返すのはいつも同じ言葉。 実際、彼女と付き合う前から勉強はしていたのだ。身体は机に向かうことに慣れている。 娯楽を捨て、執念と気合で机に向かう毎日。 伸び悩んでいた成績も少しずつ成長を始める。しかしそれも本当に微々たるもので、この調子で彼女と同じ大学に受かることが出来るとは到底思えない。 負の感情に押しつぶされそうになる毎日。自然、人差し指の横腹を噛むのが癖となる。こうすると狂いそうな心が少しだけ落ち着く。 「さあ、もう少しやらないと」  ※ 「さ、頑張ろうね」 彼女は言う。 「あ、ああ」 気付けばもう二次試験。 場は試験会場となる施設の前。二月も中旬のこと。その日は特に寒く、俺は身体の底まで凍えるのを感じた。その寒さに緊張もプラスされて足はガタガタと震える。どんよりと曇った空が、俺の心を更に沈ませる。 「まだ時間が足りない」 あっという間だった。どう考えても実力が足りない。このままでは受かるとは思えない。 一次試験も上手くいったとは言えないのだ。必要なボーダー点をギリギリ取れたかなぐらいで、それすらも奇跡だったと思わざるを得ない。 「受からない、そんな気がする」 俺は彼女に告げる。懇願とも言えるかもしれない。 心が蝕まれる。頭が真っ白になる。自分という存在がいつもより希薄になった気がする。このまま死んでしまう……そんな恐怖に心は侵食される。 「大丈夫よ。落ちても良いって言ったでしょ?」 いや、と俺は答える。
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