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『ずっと待っている』という甘い言葉に惑わされてはならないのだ。やはり受かるしかない。俺はそれを選択するしかない。何としてでも、だ。
「でも、俺は」
馬鹿で醜悪な愚者なのだ。
まさかこんなにも自身の非力さを恨む日が来るとは思ってもいなかった。ちくしょう。どうして俺はこうもアホなんだ。
「っ」
咥えていた人差し指に痛みが走る。目をやると血が滲んでいた。強く噛みすぎたらしい。
身体から力が抜けそうになる。もうこのまま倒れてしまってもいいではないか。俺は元々誰からも期待されていない小蝿以下の存在なのだ。どうなったって構わないじゃないか。
「これ、使って?」
そんな俺に声がかけられる。ふと隣を見ると、彼女が俺にハンカチを差し出していた。
「あ、ありがとう」
そのハンカチを言われるがまま受け取った俺は、人差し指にそれを押し当てた。
優しさに触れ、自然と涙が湧く。
そうだ。俺は合格しなければならない。誰の為でもない自分自身の為に、だ。彼女の隣にいたい。これからもずっと一緒にいたい。
「ありがとう、少し落ち着いた」
それは良かったと彼女は笑う。
「どう、受かりそう?」
「それは、でも……」
言い淀む。自信は湧いてこない。
「……分かったわ。仕方ない、最終手段よ」
最終手段?
「貴方はこれから天才になったつもりで振る舞いなさい」
「え?」
「貴方という人格を一度捨てて、自信家になりなさい。野心家のフリをしなさい。才能溢れる鬼才だと思い込みなさい」
「そんな、無茶な」
「だから最後の手段なのよ。いい? これは魔法よ。一度っきりの凄い魔法。私の言う通りにすれば、絶対に受かるわ」
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