馬鹿で醜悪な愚者

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だけど、俺には解いた覚えがない。 馬鹿な俺には状況が掴めない。これが俺のような救えない愚か者ではなく優秀で素晴らしい人間な―― 「あ」 ならば頭の良い人に聞いてみればいいじゃないか。 机の上に置かれていた携帯電話を手に取る。彼女と通話する為だ。 あの博識で聡明な彼女ならば何か良い答えを導き出してくれるに違いない。それに彼女は俺と同じ会場にいたのだから、何かを知っている可能性は高い。 『もしもし』 三回のコールを以って彼女と連絡が取れた。 「もしもし、俺だけど」 『……何かあったの? 声が震えているわよ』 どうやら電話越しでもコチラの様子が見て取れるほど俺は同様しているらしい。自身の薄弱さに羞恥を覚える。 「そうなんだ。あの、何ていうか、その、今日一日の記憶がないんだ」 『今日一日の記憶が?』 「いや、あー、正確には、試験会場前で君と話し合った所までは覚えてて……それで、その後何したか全く覚えてないんだ」 『……』 「何か分からない? 二時試験を受けた記憶はないんだけど、問題用紙を見るとどうやら解いたらしい痕跡があるんだ。自分じゃ何が何だか分からなくて、それで――」 『安心して』 矢継ぎ早に言葉を紡いだ俺に対し、彼女は落ち着き払った声でそう言った。 「え?」 『貴方はテストを受けてたわ。同じ会場にいた私が保証する』 「いや、でも、その記憶が」 『しかも貴方、全試験終了後に私の所に寄ってきて簡単だったねと笑っていたわよ』
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